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ごあいさつ(創立3周年を迎えて)

2007年4月1日はたまたま日曜日でしたが、英総研の創立3周年に当たる記念すべき日でした。本部付のスタッフが休日にもかかわらず数名駆けつけてくれて、ささやかなお祝いと花束をいただきました。この場をお借りして改めてスタッフの方々に感謝いたしますとともに、英総研内外で日頃よりわたしはじめ英総研の諸活動を陰に陽にご支援いただいております数多くの方々をはじめ、諸団体、各企業、教育機関、諸官庁の皆様に心より感謝申し上げます。

当初、わずか3名でスタートしたこの小さな研究所もいまでは正研究員、常勤スタッフをはじめ、非常勤スタッフや準研究員を含めると18名、在外研究員や特別研究員まで含めると何と26名、5月には28名に達しています。お陰さまでようやくここ3年目で各方面より「英総研」「ERI」などの目的や特徴、それに品質の確かさなどで一定の評価をいただき、またその諸活動を暖かく見守っていただき、ご賛同もいただけるようになりました。

また、その研究・開発の土台ともなるERIと呼ばれるデータベースはわたしが応用言語学を始めて以来、約30年間の蓄積であり、英語や英語教育だけでなく「ことばや文化」に関してはありとあらゆるものをカバーしており、特にESPと呼ばれる特殊分野や教授法・プログラム・カリキュラムの現物をカバーしたものとしては、日本はもとより世界最大の網羅性があると言っても過言ではありません。

まだ、ERIは現在のところ部分的な稼動であり、特にその中のコーパス(言語データ)を使っての作業が主であり、全体の本格稼動はしておりませんが、年内には3周年記念行事の一環として本格稼動を予定しております。将来的には各教育機関とも連携しながらの一般公開及びアクセス使用を考えております。そうすれば、将来的に、どこにいてもある教育や研修の目的や受講生のニーズに応じたプログラムや教授法を独自に組み合わせて、それに応じた適切な教材をERIデータベースより自由に取り出してモジュラー的にテキスト化やテスト問題作成などが可能となります。

もちろん、それをサポートする人的要員、特にカウンセラーも当然のことながら必要になります。基本的な部分で大事なことは時代が変っても同じであり、本質的な部分は問題意識をきちんと持った人間が関与すべきだということです。そして、その問題とは英語教育や学習の場合、「何を」と「どのように」の二つです。前者はWHATの問題で、それはそれこそ英語の「単語はどのくらい、どんな単語を覚えたらいいの?」という質問から、「うちの学校のカリキュラムを中高一貫制に切り替えるが、それを機に英語のプログラムを何とかどこにも負けないものにしたいが、どんな内容がいいだろうか?」という問いに対する答えまでが含まれます。後者はHOWの問題であり、「ある文法がいいっていうけど、本当に使いやすくて役に立つの?」という疑問から、「どうも生徒のくいつきがよくない、教えにくい、やる気がない。いったいどう教えれば活気が出てくるのか?」という問題解決までを取り扱っています。

以上のように多岐に渡る問題解決に当たる英総研(内部ではそんなよろず相談所である研究所を略して、よくERIPS[エリップス:English Research Institute for Problem Solving]と呼んでいます)は大まかには次のような構成となっています。

---英総研---
 本部
(総務・庶務 など 常勤スタッフ 非常勤スタッフ)
 研究・開発部
(研究、企画、教材開発、各種データベース、コーパス分析・処理、テスト開発、プログラム・カリキュラム開発など 研究担当・正研究員 準研究員)
 指導・研修・カウンセリング部
(各種臨床・実験クラス及び講座の計画・実施、教員研修、トレーナー研修、指導法・授業法の開発・改善、授業などの評価、カウンセラーの派遣)

どうぞ現場の先生方はもちろんのこと個別の学習者からもご質問やらご相談は大歓迎ですので、どんなお悩みでもお寄せください。英総研は、現在のところ外部での宣伝などはいっさいしていません。講座などの案内もこのウエッブと口コミくらいだけです。でも、お陰様で国内外の見知らぬ(でも熱心な)方からほぼ毎日20通近くのお問い合わせやご連絡、ご相談をいただきます。

いろんなご相談の中で最近、よくweb教材やe-learningなどがこれからの語学学習の切り札やバラ色の未来だと熱っぽく語る人がいるため、導入はどうだろうかというご相談がここに来て急速に増えています。個人でもネットで数万円、教育機関や団体ですと数百万円から数千万円の必要経費がかかります。もちろん、web教材やe-learningは経営サイドから見ますと、経営上もっとも財政を圧迫する人件費が削減できるとして、けっこう魅力的に見えます。また、ズラッと並んだコンピュータの前で生徒や学生が自分のペースでやっている様は絵になりますから、入学案内に使われたり、父母などにも何となくすごい感じに見えるので、導入を決めたり考えているところが多くなっています。もちろん、それらのプログラムはよほどひどいものでなければ、教育や学習の補完的な位置づけとしてはある程度役に立つことは事実です。(ということは、逆に言うとどれも50歩100歩で似たようなもので断トツにいいなどというものも現在はありません)

現に、英総研でもいま4つほどのネット教材やe-learningを外部とタイアップして進めています。いずれも、内容のよさはもちろんのこと使いやすさもなかなかなものです。しかし、これはいま国内外で使われているどんなe-learningにも当てはまることですが、それだけで万全ということはありえません。ここが経営サイドがよく見落とす最大の問題点です。最初は教職員も生徒・学生も宣伝効果もあり、物珍しいので遊びがてらにけっこう視聴覚室やコンピュータ教室、CALLなども賑わいます。ただ、それも使用率が一桁に落ちるのはそんなに先ではありません。(もちろん、ここでは教科外扱いでの利用を念頭に置いています。無理に授業でやらせればやるかもしれませんが、今度はそれを積極的に使う教員がいるかが問題です)なぜでしょう?これらのせっかくのプログラムがうまく効果的に機能するためには、どうしても、学習を持続させ、さぼり癖を是正し、落ちこぼれそうな人には手を差し伸べ、励まし、悩みを聞いてあげ、自分で問題を解決するのを助けてあげ、自分を大事にしかつ自信をつくように仕向け、独り立ちして行けるように、導いてくれるような「ハート」のあるカウンセラー的な人材が側面支援することが絶対に必要なのです。

これは何もe-learningの問題だけではありません。各レベルの学校でもまったく同じです。いま、英語だけでなく各科目で、ついていけない、やる気がでない、落ちこぼれるといった問題が大きな問題となっています。いま、英総研でも約53の小・中・高・大と企業や官庁の英語講座や保育園・幼稚園の英語教育のプログラムやカリキュラムを客観的に評価し、問題点を是正して、差別化を図ったり、強化したりするお手伝いをしていますが、そこでほとんど場合、誤解されているのがここの部分です。ある学校の場合、うまくいかないのは教員の授業力・指導力が弱いせいだとばかり、ある有名予備校のカリスマ講師陣を呼んで特訓講座をやったということです。これはわたしにいわせれば話しがまったく逆です。彼らカリスマ講師(実は英総研でも2名ほど研修や研究会・ワークショップ部門の要員として登録してもらっています)はタレント性があり、話術にたけて、ある意味での授業は上手です。しかし、それが機能するためには一流予備校のように生徒側が入試合格やTOEIC受験などの目標がはっきりし、意識も高いことが絶対条件となります。

しかし、極端なことを言えば一流の進学校のように、すでに意識が高くて、やる気がある(いわゆる優秀な)生徒はどんな教え方でも場合によっては放って置いても勉強するし、成績も一定以上はキープするでしょう。いま、問題になっていて緊急に必要なのは、そういう意味で彼ら優秀な生徒に火をつける教師よりも、英語の教室でただボーっとして早く時間が過ぎないかなーと窓の外を見ている生徒、目の前の英語が暗号にしか見えなくてやろうとすると頭がクラクラしてくる生徒、大学生なのに「目的語」といわれてもピンと来ない人、社会人になってもまだ英語アレルギーやトラウマが残ってる人たちが、「えっ、英語ってそんなに難しくないんだ!」「英語をやるのも悪くないじゃん。ちょっと真剣にやってみようかな」と思わせるような環境づくりが出来る人、出来ない弱い学習者の立場で一緒に考えてくれる、どんなに出来なくたっていつでもニコニコしながら「大丈夫だよ、ちょっと時間が掛かったって必ずわかるようになるよ」といつでも暖かい声と励ましを与えてくれるような人がいま緊急に必要だといえます。

では、どんな人がその任に合うでしょうか?教師でしょうか?もし、教師がこのような任に当たるとするとその人はまず教師として教えるという立場を離れるくらいの覚悟が必要です。心構えということです。仕事柄、よく中学校や高校そして大学に行くのですが、どこでも「落ちこぼれ」や「出来ない子」はやっかいもの扱いされています。平気で「あいつらがいなけりゃ、もっとどんどんと教科書が進められるんですよ」と面前で言われて、思わず相手の先生の顔を見たことは一度や二度ではありません。学校によっては、そのような生徒用に補習や補講なども行われるようになりました。でも、教師によっては最初から「どっちみちやっても無駄だけど、形式的にでもやっておかないといけないから、仕方なくやる」という人もけっこういます。大学なども事情は同じです。英語を落とした学生を集めて再履修のクラスを行うのですが、まずその大学のベストメンバーが教えるなどということはありません。若い非常勤などにその役が回ってきて教えることになります。もちろん、中には熱心で情熱を持っている教師もいますが、たいていは寝ていようが私語があろうが適当にやって終わりです。でも、仕方が無いといえば仕方がありません。彼らはある研究の専門家ですが、一部の人を除いては、英語指導や特に出来ない学生指導の専門家では無いから、やり方もわからないし興味も持てないでしょう。

わたしは以前、勤めていた大学でプログラムの責任者をやったときに、英語のプレースメント・テストで最下位のグループや再履修の学生には、通常の授業以外に行う補充プログラムとして、語学トレーナーを短期養成してその人たちを授業に当てようと思いました。でも、正規の教員でなくても大学なんだから資格要件(修士号や教歴、それに研究業績)が必要といった反対意見が生じてそれを止めざるを得ませんでした。わたしが考えていたのは、一般社会には家庭の主婦や塾の講師をはじめとして、確かに上のような資格は無いかもしれないけど、英語に興味や関心があって、実に人間的な暖かみがあり、特に「出来ない子たちの気持ち」がわかる人がたくさんいますし、何か少しでもそんな子どもたちや学生たちのお手伝いがしたいと思っている人はおおぜいいると思ったからです。(いま、開いている総合カウンセリング講座はある意味でそのときに出来なかったことをやってみようというひとつの具現化です。ほぼ10年後に実現したわけです)

ここ最近の英語教育の流れを見て来ますと、いま戦後で第3の大きな転機だと思われます。最初は華々しくデビューした「オーラル・アプローチ」が一世を風靡した時代が長くは続かずに、いわゆるチョムスキー革命で、その手法が批判され、衰退していった時期が第1ですね。(わたしはこのときにもう少し慎重に日本の英語教育界が、ただ無批判に認知コード的な考え方に切り替えるのでなく、「オーラル・アプローチ」の長所・短所をきちんと客観的に評価していい点は残すべきだったと、いまでも思っています)そして、「やがて混迷期に入って、次から次へといろんな教授法やら指導法が登場しますが、第2期で切り札として「コミュニカテイブ・アプローチ」が華々しく登場するわけです。そして、基本的にはこのアプローチに基づいた「コミュニケーションを重視した英語教育」(CLT)がいまなお日本では使われています。(もちろん、広い日本にはこのような時代の変化に関係なく、昔ながらの訳読文法の授業を行っているところも、まだまだ多いかもしれません)

しかし、いまさすがに学力が英語を含めて落ちている、何とかして欲しいということで、特に基礎基本や文法、リーデイングの強化の必要性などが謳われています。ことばだけはよく「タスク」や「コンテント」などがCLTの改訂版のような位置づけでいわれていますが、なかなか日本の英語教育現場での決定打とは行かないようです。ですから、またここでしばらく混迷が続きそうです。でも、その混迷をいつまでも続けるわけには行きません。いよいよ第3期の始まりです。ここでのキーワードは「客観的な評価基準」を絶えず意識する(つまり、単なる経験と勘だけには無理があるということ)ということと、「ハートを大事にするコミュニケーション」(つまり、人間臭さを大事にする)ということでしょう。英総研は民間にある小さい研究所ながらも、研究・開発に加えて絶えずどんな場合でも「臨床・実験」を欠かさず続けています。テストや診断カルテの被験者数もとうとう1万人の大台に着きました。それらの結果データも研究員たちがそれぞれ日夜、項目分析や学習者の誤りコーパス(LC)化を図っており、近々それらの成果に基づく、応用教材や応用教具などが登場するはずです。

英総研は今後ともERI及びそれに集う人たちの叡智を結集して、これからも日本の英語教育及び学習、それに関連する分野の資質向上のために全力を尽くして行きたいと考えております。創立3周年の記念すべき年を迎えるに当たって、関係各位にはこれまで以上のご支援・ご鞭撻を切にお願いする次第であります。

2007年4月17日
阿部一英語総合研究所(英総研)
所長 阿部 一

 

 
 
 
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